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岡山地方裁判所 昭和56年(ワ)600号 判決 1982年5月24日

原告

塩見栄

被告

渡辺伸一

主文

一  被告は、原告に対し金四二九万八二三三円およびうち金三八九万八二三三円については昭和五四年九月二八日から、うち金四〇万円については昭和五七年五月二五日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金一〇〇一万七八四七円および内金九一一万七八四七円については昭和五四年九月二八日から、内金九〇万円については判決言渡の翌日から、各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五四年九月二七日午後三時一〇分ころ

(二) 場所 岡山市西大寺東一丁目五番二二号先交差点

(三) 加害車両 大型貨物自動車(岡一一か三六三三)

(四) 右運転者 被告

(五) 被害車両 原動機付自転車(岡山市か九九六八)

(六) 右運転者 原告

(七) 態様 事故現場交差点の西側で、加害車両、被害車両は共に信号まちのため停止していたが、青色信号に変つたことから、左折を開始した加害車両と、直進しようとした被害車両が接触したもの。

2  責任原因

一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告は、前記交差点西側で信号まちのため一時停車中にその運転する加害車両の左側に被害車両を運転していた原告の存在に気づいていたのであるから、信号が青色に変つて発進し、左折するにおいては、左方の安全を確認し、殊に自車の左側にいた原告の動静を十分に把握したうえ左折すべきであるのに、これを怠つて左折を開始した過失により本件事故を発生させた。

3  受傷、治療経過等

(一) 受傷

左脛骨、腓骨、小頭骨々折、左膝変形性関節炎。

(二) 治療経過

入院

昭和五四年九月二七日から同年一二月二五日まで林病院(岡山市西大寺中野所在)

通院

昭和五四年一二月二六日から昭和五五年四月三〇日まで前記林病院(実治療日数一〇日)

昭和五五年五月二七日から昭和五六年二月一三日まで津下外科病院(実治療日数二九日)

(三) 後遺症

左下肢三センチメートル短縮(自賠法施行令第二条後遺障害等級表第一〇級第八号該当)。

4  本件事故に基づく原告の損害

(一) 治療費 金三五万六五一四円(社会保険からの支払分を除く)

(二) 入院雑費

入院中一日金六〇〇円の割合による九〇日分

(三) 入院付添費

入院中付添を要した昭和五四年九月二七日から同年一二月二五日まで付添婦を雇入れ、金五四万三二六〇円を支払つた。

(四) 通院交通費

林病院へ通院のため利用したタクシー代は合計金六六六〇円。

(五) 松葉杖購入費

橋本義肢製作株式会社から松葉杖一組を金四八〇〇円で購入した。

(六) 逸失利益

(1) 休業損害

原告は、事故当時五五歳(大正一三年二月一八日生)で、農業に従事する傍ら主婦として家事一切を行つていたもので、少くとも同年齢の女子平均給与額たる月額金一六万四五〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五四年九月二七日から昭和五六年二月一三日までの間就労できず、合計金二七三万一一五〇円の収入を失つた。

算式 一六万四五〇〇円×一二÷三六五×五〇五(日)=二七三万一一五〇円

(2) 将来の逸失利益

原告は、前記後遺障害のため、その労働能力を二七パーセント喪失したものであるところ、原告の就労可能年数は一二年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金四九一万一四六三円となる。

算式 一六万四五〇〇円×〇・二七×一二×九・二一五一=四九一万一四六三円

(七) 慰藉料

前記入、通院治療期間中および後遺障害に対する精神的苦痛を慰藉するには金三八〇万円をもつて相当とする。

(八) 弁護士費用

原告は、被告に再三損害賠償をするよう請求したが、被告がこれに応じないため、やむなく原告訴訟代理人に訴訟手続を依頼し、その費用、報酬等として金九〇万円の支払を約した。

5  損害の填補

原告は、前記損害のうち自賠責保険金三二九万円の支払をうけた。

6  本訴請求

よつて、原告は被告に対し、右損害金の残額のうち弁護士費用を除く金九一一万七八四七円およびこれについては本件事故の翌日たる昭和五四年九月二八日から、弁護士費用の金九〇万円とこれについては本判決言渡の翌日から、いずれも完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  (事故の発生)については、(七)態様を除き全部認める。

2  (責任原因)の事実は否認する。

3  (受傷・治療経過等)については、(一)受傷、(二)のうち原告主張のとおり入院していた事実は認めるが、その余の事実は否認。

4  (本件事故による原告の損害)の事実中、通院交通費と松葉杖購入費については認めるが、その余はいずれも否認。

5  (損害の填補)の事実は認める。

三  抗弁

原告は、前記事故現場交差点にさしかかつた際および同交差点において対面信号が青色に変つて発進する際に、前方および加害車両の動向に注意を払わなかつた。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の(一)ないし(六)の事実は、当事者間に争いがなく、同(七)の事故の態様については後記二で認定するとおりである。

二  責任原因

成立に争いのない甲第一四、第一八、第二〇号証、原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一七、第一九号証を総合すると、つぎの事実を認定できる。被告は加害車両を運転して東進し事故現場交差点西側にさしかかつたところ、対面の信号機の信号が赤色を表示していたので左折の合図を出した状態で停止線あたりに停車し対面信号が青色に変るのを待つていた。その時、左助手席窓ごしに自車左側に残された約一、五メートルの通行余地部分(二輪車通行帯)に白いヘルメツトようのものが入りこんできたのに気づいたものの、それ以上に注意を払うことなく、対面信号が青色に変つたもので時速約一五キロメートルで発進左折しはじめた。そのため自車左前輪部が原告運転の被害車両右側に接触し、原告が被害車両の左側下に転倒負傷した。そこで、右事実によれば、自動車運転者たる被告としては、対面信号が青色に変つた後、発進左折するにあたつては、自車左方の交通の安全を十分に確認したのち左折すべき注意義務があるのに、これが確認を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、被告は民法七〇九条により原告が本件事故で蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

三  受傷、治療経過等

原告が本件事故により請求原因3(一)のとおり受傷したこと、そのため同項(二)のとおり九〇日間林病院に入院した事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四、第五号証、原告本人尋問の結果とこれにより成立を認めうる甲第六号証によれば、原告は前記受傷治療のため退院翌日の昭和五四年一二月二六日から昭和五五年四月三〇日までの間に一〇日間前記林病院に通院し、昭和五五年四月三〇日をもつて、左脛骨、腓骨、小頭骨々折のため左下肢三センチメートル短縮、起立時左膝に軽度の伸展障害を後遺症として、症状固定したこと、しかし右症状に伴う左膝変形性関節炎のため、原告は、なお昭和五五年五月二七日から昭和五六年二月一三日までの間に二九日間岡山市西大寺中野所在の津下外科病院に通院し加療をうけた事実が認められる。

四  本件事故による原告の損害

(一)  治療費

成立に争いのない甲第七、第八、第九号証によると、原告は昭和五四年九月二七日から昭和五五年一月三一日までの林病院での前記傷病治療のための費用として金三三万三八五九円(社会保険以外の負担分)、昭和五五年五月二七日から昭和五六年二月一三日までの津下外科病院での同様治療費として金二万二六五五円(合計金三五万六五一四円)を要したことが認められる。

(二)  入院雑費

原告が九〇日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日金六〇〇円の割合による合計金五万四〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  入院付添費

成立に争いのない甲第三、第四号証、原告本人尋問の結果とこれにより成立を認めうる甲第一〇号証の一ないし一〇によると、原告は前記入院期間中(九〇日間)骨折による歩行不能等のため付添看護を要し、この間博愛付添婦斡旋所を通じて付添婦を雇い入れ、そのため合計金五四万三二六〇円の損害を蒙つたことが認められる。

(四)  前記林病院への通院治療のため合計金六六六〇円の交通費を要したこと、(五)松葉杖購入費金四八〇〇円を要したことについては当事者の明らかに争わないところである。

(六)  逸失利益

(1)  休業損害

原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時五五歳(大正一三年二月一八日生)で、農業の傍ら主婦として家事一切を行つていたものであることが明らかなので、少くとも同年齢の全国女子一般労働者の平均賃金相当額たる一か月平均金一四万五六七五円の収入(賃金センサス昭和五四年第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計による)を得ていたものと推認しうるところ、本件事故による受傷のため、昭和五四年九月二七日から昭和五五年四月三〇日までの間は家事等を含む一切の労働をなし得ず、その間合計金一〇四万四〇七〇円の収入を失つたことが認められる。なお、原告は昭和五六年二月一三日まで全く就労できなかつたとして、この間についての休業損害を請求するが、原告本人尋問の結果とこれにより成立を認める甲第六号証によれば、もはや昭和五五年四月三〇日をもつて症状固定ないし治癒との診断がなされており、しかも前記甲第五号証をもつてしても、原告が左膝変形性関節炎との病名でその後昭和五六年二月一三日までの間に通院加療実日数は二九日にとゞまること等の事実をあわせ考えるとき、さきの認定額をこえる分については、いわゆる後遺障害による将来の逸失利益算定の問題として処理するのが相当である。

算式 金一四万五六七五円×一二÷三六五×二一八=一〇四万四〇七〇円

(2)  将来の逸失利益

原告本人尋問の結果および前記認定の受傷並びに後遺障害の部位、程度(自動車損害賠償保障法施行令二条別表第一〇級相当)によれば、原告は前記後遺障害のため、その労働能力を二七パーセントは喪失したものと認められるところ、原告の就労可能年数は昭和五五年五月一日から一一年間(満六七歳まで)と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金四四五万九六〇一円となる。

算式 金一九二万二八〇〇円(賃金センサス昭和五五年第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計、全国女子労働者五五―五九歳)×〇・二七×八・五九〇一=金四四五万九六〇一円

(七)  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容、程度、原告の年齢、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は金三八〇万円とするのが相当であると認められる。

五  過失相殺

前掲甲第一四、第一七ないし第二〇号証および原告本人尋問の結果によると、本件事故の発生については原告が被害車両を運転して車道左端部にある幅員約一、五メートルの部分を東進し事故現場交差点西側において信号まちのため停車した際には、既に自車右斜め前には被告運転の加害車両が左折の合図を出した状態で信号まちのため停車していたのに、これに気づかないまゝ対面信号が青色となるや同交差点内に進入した進路前方不注視の過失が認められるところ、前記認定の被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三〇パーセントを減ずるのが相当と認められる。

六  損害の填補

原告において自賠責保険金三二九万円の支払をうけている事実は、当事者間に争いがない。

よつて、原告の前記損害額から右填補分三二九万円を差引くと、残損害額は金三八九万八二三三円となる。

七  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金四〇万円とするのが相当であると認められる。

八  結論

よつて被告は、原告に対し、金四二九万八二三三円およびうち弁護士費用を除く金三八九万八二三三円については本件不法行為の後である昭和五四年九月二八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、弁護士費用の金四〇万円については判決言渡の翌日以降支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告の請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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